ケース2 弘樹君

 実際の運動機能訓練の結果を報告するわけですが、専門用語が登場します。一部を「☆」で簡単に説明いたします。

☆ LS1度:スタビライザに入っていても、立っていることができないので机やテーブルに寄りかかっている状態。
  LS2度:スタビライザに入ると立っていられますが、立つだけがやっとの状態。
  LS3度:スタビライザに入ると立つことができ、腰を曲げて足下の物を拾うことができる状態。
  LS4度:スタビライザに入ると立っていられ、そのスタビライザを後ろに倒しても、足を高く上げた状態で座っていられる。
  LS5度:スタビライザに入り立っていられ、そのスタビライザを倒してスタビライザを身体に着けたままで寝返りができる。

◎ 我が子の発達経過
 いつもは住まいの近くの市立病院の産科にて、妊婦検診を受けていました。里帰り出産を予定していたので、実家近くの総合病院にて妊娠24週の検診を受けたところ、「双胎間輸血症候群」と説明があり、「受血児は脳内出血や心疾患をおこし、障害が出る可能性がある」と、この時説明がありました。
 この症候群を改善する手術が26週まで可能ということで、国立病院を紹介されましたが、「手術するリスクが高い状態」と説明がありました。その時その時できる事はしたので、悔いはありません。もし手術をするとしたららば、自費で50万くらいといわれました。
 妊娠27週1日の2007年02月に、一人は953g、もう一人は699gで産まれました。体重の多い弘樹が、出生時に脳内出血を起こし、障害も残る結果となったのです。
 生後3ヶ月時に、NICUの退院を前にMRI検査を行い、脳室周囲白質軟化症による脳性麻痺と告知されました。
 国立病院で生後6か月から理学療法訓練開始。
 首がすわったのは10か月頃。
 1歳2か月で、地元の療育施設にリハビリが変わり、週1回の理学療法ではただ泣き叫ぶだけで、効果はあまりありませんでした。私は不信感を抱きましたが、息子にとって相性の良い先生なら…と我慢しようと思って通い続けました。
 しかし、2歳になったころ松葉杖の訓練会を口コミサイトのような所で紹介されているものを見つけました。この訓練会のホームページに辿り着き、その中で衝撃的な文章を目にしました。「1年リハビリをしていて変化がなければ、次の方法を考える必要がある」と…。同時にお世話になっていた保健師さんに偶然会った時、泣いていて訓練にならないと嘆きを聞いてもらったら、「良くそんな状態で連れて行って偉いねぇ」といわれました。
 私は、これは別の手段に動かなくてはいけない初動にかられ、この訓練会の門をくぐりました。

∞ 訓練指導に当たる者から見た弘樹君の変化
 2歳4か月の弘樹君の機能状態を診れば、右側への寝返りを行うが左側には行かない。肘這い(腹這い)を行う。持ち込んでも座位保持不能。
 膝が軽度曲がっていて伸びない。足関節も硬い。
 全身のストレッチ、左右への寝返り、各種持ち込み座位保持、立位を訓練内容とした。
 診ている間と訓練している間、ずっと泣いている。
 立位の際に、腰が伸びずに曲がってしまい伸ばそうとしないような感じである。
・ 訓練を開始して1か月後:あぐら座位に持ち込んで、少し保持するようになる。
・ 訓練を開始して3か月後:松葉杖訓練に入る。松葉進度1。
・ 訓練を開始して4か月後:訓練中、泣かずに行えた。
・ 訓練を開始して5か月後:LS訓練に入る。LS1度。
 スタビに入ると尖足位となり、立ってから足部を入れ直す必要がある。
・ 訓練を開始して6か月後:松葉進度2となる。
 持ち込んでのあぐら座位、正座位で、手を床に支えて座っているようになる。左右への寝返りが可能となる。四つ這い位に維持することが軽い介助で行える。
・ 訓練を開始して11か月後:股関節と膝関節の周囲筋の筋解離術を受ける。
・ 訓練を開始して1年1か月後:LS2度となる。立っていられるが、腰が充分に伸びない。
・ 訓練を開始して1年3か月後:松葉進度3となる。
・ 訓練を開始して1年8か月後:自力座位が可能となる。四つ這い移動を少し家庭で始めたとのこと。
・ 訓練を開始して2年1か月後:四つ這いを良く行うようになる。
・ 訓練を開始して2年7か月後:立位の姿勢で腰が伸びるようになった。
・ 訓練を開始して3年10か月後:地元の小学校に入学。
・ 訓練を開始して5年7か月後:松葉進度4となる。
・ 訓練を開始して6年後:松葉進度4の状態で、40m程歩くようになる。
 階段の昇り練習に入る。
・ 訓練を開始して7年後:松葉進度4の状態で、60m程歩くようになる。
・ 訓練を開始して7年8か月後:股関節、膝関節、足関節の各関節周囲筋の筋解離術を受ける。
 術後1週間で訓練に入る。
・ 訓練を開始して8年7か月後:松葉杖歩行訓練と共にロフストランドクラッチでの歩行訓練に入る。独歩が難しいと考えるため…
・ 訓練を開始して8年10か月後:ロフストランドクラッチでの歩行が可能となる。
・ 訓練を開始して9年2か月後:学校の運動会にロフストランドクラッチで参加し、運動会見学者と参加者から大いに声援を受ける。

◎ 弘樹君のその後
♪ 保護者の感想
 訓練を開始して1年8か月で自力座位、四つ這いができたことがターニングポイントです。
 それまで発達支援センターに通っていましたが、保育園へ転園するきっかけになったからです。この事により、小学校選びも支援学校ではなく、母親同伴と条件付きでしたが、通常学級に進路を選ぶ機会が得られました。
♪ 指導者の感想
 弘樹君は通常であれば、自力座位や四つ這いが可能となったのかとても疑問です。
 訓練を開始して、自力座位や四つ這いが可能となるまでに、1年8か月が経過しています。加えて松葉進度3となってからも、進度4となるまでに4年4か月を要しました。これだけの長期に渡り同じように訓練を継続する施設や個人が他にあるでしょうか?
 このような結果を、他の法を行えばもっと可能となることが多かったといわれる方もおられるかも知れませんが、どうなのでしょうか?
 とてもゆっくりですが、能力が進歩していることは事実です。いつまで進歩が続くのでしょうか?
 再手術を行い、今後の機能の変化が期待されます。

 自分で座ることや四つ這いすることが難しいと思われる子どもが、自分で座れるようになり、四つ這いもするのです。それどころか松葉杖で歩くことも可能となっているのです。



 製作 LS-CC松葉杖訓練法 湯澤廣美