小さな声で〈ちィさなこえで〉  

          『別題「けんかをやめて」』

 

     お願いだから

     もっと小さな声で話そう

     大きな声は決して心に届かない

     大きな言葉は決して意味を伝えない

 

     それは散る桜の余韻を楽しむ花見のあとの一家団らんの時でもいい

     それはけだるい梅雨に辟易する六月のうすら明るい夕暮れ時でもいい

     うだるように暑い夏の昼御飯のあとの茶の間ででもいい

     天高く晴れ渡る秋の収穫前の農作業小屋の中ででもいい

     動けなくなるほど寒くて暗い冬の日の真夜中にでもいい

     またそれは                                             

     何の突出した出来事があったわけでもなくぽっかりと空いた時間空間の中ででもいい

 

     まのびするほどのタイクツな時間を利用して

     ぜひその時は騒々しいあのテレビも消して

     愛すべきこの言葉の響きを大切にして

     小さな声で話をしよう

 

     さァ じっくりと言葉を探し 選ぶのだ

     コレハナンダ ナントイエバイイノダ と

     これは唯一絶対無二の僕の言葉の感覚であり思考なのだ

     自分にきびしく詰め寄って

     頭脳(アタマ)を最大限(フル)に回転させて

     神経(ココロ)を敏感(ビンカン)にむき出しにして

     君にはきっとわかってもらえる表現で

     できれば美しい音楽もつけて

     自分の命を小さな言葉に託すのだ

 

     静寂な部屋では時計の秒針だけがカチコチと鳴っている

     時折 風が吹く音が聞こえる

 

     その耳もとにささやくように

     僕は僕の真実を話そう

     まるで息がかかるぐらいのこの距離で

     命からがらとつとつと話そう

     僕の大事な小さな言葉を

     君の大事なこころに重ねて

 

     お願いだから

     もっと小さな言葉で話そう

     僕は自分が自分である証を深くふかく探ってゆく

     君が君である現実を繰り返しくりかえし感じながら


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